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​Story.1

 

どうも、天霧ユウです。突然だけど、今僕らはプラネタリウムに来ています。というのも…。

 

「うっひょわ~~~~~~~!!!ワタクシおプラネタリウム初めてですわ~~~~~~~~~!!!」

 

ちょっと待ってタンマ。

 

「まだ並んでる最中なのに何でボルテージマックスになってんのパイセンうるさい静かにして周りに迷惑です」

 

「いやぁん!天霧サンてばおめめが怖…ひぃぃぃぃぃん嘘です嘘ですごめんなさ~~~い!!!」

 

握り拳でパイセンの頭をサンドしてグリグリしてると、トイレに行ってた神々廻が戻って来た。

 

「トイレまで声聞こえてたんだけど。ウケる~」

 

「ウケる~じゃねえよ。笑ってないでパイセンの面倒見ろよ」

 

「ユウ君ご機嫌ななめなん?」

 

「やめろその呼び方」

 

鳥肌立ったわ。

 

僕が身震いした時、時間になったのか扉が開かれた。人混みの一員になりながら、僕らもぞろぞろと中に入る。

 

 

…事の発端は、チラシ。

 

道中立ち寄った街で、三人でぶらぶら散歩していた時の事だ。ティッシュ配りの人からパイセンが貰ったポケットティッシュに、近々オープンしたらしいプラネタリウムの宣伝チラシが入ってて。

 

まあ当然、そんなものをパイセンが見過ごす訳がなく。行きたいですわの一点張りで。僕は鈍感ではないし、パイセンは神々廻と行きたいんだろうなと思ったんで…つまり空気が読める人間なので…車で待ってるから二人で行って来いと提案したんですけど。御覧の通り道連れにされました。はずかちいだのなんだの理由付けられてさ。そんなだから一生進歩しねえんだろが。

 

…まあ、誘われた事自体はぶっちゃけ…ちょっと嬉しかったんですけどね。

 

 

「えーっとお席は~~~~…此処ですわね!」

 

イキイキと先頭を歩いていたパイセンが僕らに振り返る。さて、座る順番決めないと。

 

「真ん中誰にする?」

 

無難に神々廻で良いだろうという気はしつつ、一応聞いてみる。

 

「そんなの決まってます!!お暗所で…おロマンチックな場所なんですよ…?おカップルの方々も多いですし、おラブロマンス勃発確定演出ですわ!!つーまーり~~~~??」

 

ちらちらと神々廻に視線を送るパイセンですが。

 

「天霧どうぞー」

 

「なんでなんでなんでなんでなんでですのナギ~~~~~~~~!!!!!!」

 

「セクハラ回避の為」

 

「そんなぁ!!しませんわよそんなはしたない事!!」

 

「絶対盛らないって保証出来るん?」

 

「…」

 

急に黙るな。

 

 

 

結局真ん中に座らされた僕は、ぽつりと呟く。

 

「これが本当の間男ってやつか…」

 

すると左隣の神々廻がへらへら笑いながら拍手してきた。

 

「うまーい」

 

「あざーす」

 

なんも嬉しかねえけどな。

 

「ところでところで、二人はおプラネタリウム来た事って今までにありました?」

 

かまってちゃんのパイセンが割り込んでくる。やれやれ。どうでも良いけど僕を挟んでこいつらが座るこの配置、神様ロスの時に神社(だと思い込んでた廃墟)で慰めてくれた時と同じだな。

 

「オレはお初」

 

「僕も」

 

神々廻に続いて答えると、パイセンは何やら嬉しそうに笑った。

 

「良いですわね!全員で初体験!素敵ですわ!」

 

「青春~」

 

「そんな事言える年齢じゃないっしょ」

 

「心はいつでもピッチピチですわ!」

 

「はいはい」

 

物は言いよう。

 

…おっと。そろそろ始まるみたいだ。

 

 

 

天井一面に、星空が映し出される。いつでも空を見上げれば星空なんて見れるのに、周囲からは喜びの声が聴こえた。意外にも静かだったので不思議に思いつつ右隣を見ると、パイセンはキラキラした目でスクリーンに釘付けになっていた。静かにさせるの大変だろうなと思ってたから助かる。そして左隣の神々廻は…爆睡していた。こんな冒頭から寝る奴が居るか馬鹿野郎。いつの間に旅立ちやがった。起きろ。チケット代勿体ないだろが。

 

何処からか流れてくる声が星座の説明をしてくれている中、僕は神々廻を揺すりまくる。だが起きない。こいつ一回寝るとまじで起きないんだよな……はぁ。もういいや。ほっとこ。

 

 

どうやら季節ごとの空を映していくという内容らしく、奮闘している間に夏の空になっていた。

 

夏。夜。星。

 

神様とキャンプした時の事を思い出して、懐かしい気持ちになる。神様、オリジナルの星座作るのにハマってたんだっけ。

 

「…ねえパイセン」

 

「…」

 

「パイセン」

 

「…はっ!どうしました?天霧サン」

 

僕は天井に浮かぶ人工的な星を指さして、点と点を線で結ぶ様になぞりつつ言った。

 

「あれは便座」

 

「便座」

 

「正座発見」

 

「正座」

 

「土下座も見える」

 

「土下座」

 

復唱していたパイセンが、盛大に噴き出す。僕もつられて笑う。

 

「ちょっと天霧サンってば!それはズルいですわ~!ワタクシは良いと思いましたけど、仮におデートでしたらおムード無さ過ぎて破局しちゃいますわよ!」

 

小声(当社比)のパイセンの言葉を何処か遠くに感じつつ、神様が教えてくれたくだらな過ぎる星座をぼんやりと眺める。

 

 

ああ…僕、憶えてるんだな。ちゃんと。

 

 

まるで霞の様な、夢の様な、幻の様な…神様との思い出。

 

何だか込み上げてくるものがあって、無意識に鼻を啜る。ツンとした感覚。同時に、一筋の涙がすっと頬を濡らした。

 

孤独では無くなった。なのに、少し寂しい。そう思ってしまう僕は、欲張りなんだろうか。

 

「え、あの、そんなにショックでした…!?冗談ですわよ天霧サン!破局なんてしませんわ!」

 

自分の発言がトリガーになって僕が泣いたと勘違いしたらしいパイセンが、慌てた様子で見当違いのフォローを入れてくる。フォローにフォローを返そうとした時、左肩にズンとした重みが乗っかった。神様が復活したとか、勿論そんな事は無い。犯人は神々廻だ。大方寝てる間に重心がズレて、寄りかかってきたんだろう。

 

「こんにゃろう…」

 

つい押し返そうとするけど、向こう側に居る知らない人が被害に遭うのもいかがなものかと思い直し、仕方なく肩を貸してやる。あー、重たい。憑かれた気分。

 

「ぎええええええズルいですわズルいですわ天霧サン今からお席チェンジしましょう!!」

 

「お静かにー」

 

「あ~~~~~ん!」

 

やれやれ、感傷に浸らせてくれないなぁ。それが有難いっちゃ有難いんだけど。

 

…とりあえず、せめて観賞は楽しむとしますか。

 

 

 

「あー良く寝た」

 

星空が消え、黒い天井になった時。丁度目覚めた神々廻が、伸びをしながら定番の台詞を吐いた。何故こういう寝て過ごす奴は終わったタイミングでちゃっかり開眼するんだろうか。

 

「おはよう」

 

呆れながら声を掛けると、パイセンが叫んだ。

 

「あー!!涎が!!天霧サンのお洋服にナギの涎がーーー!?!?」

 

「は!?!?まじ!?!?っざけんな神々廻てめえ弁償しろ弁償!!」

 

「羨ましいですわ羨ましいですわ買収させて下さいましーーーー!!!!」

 

「黙れ文無し年増ぁ!!!!!!」

 

「豪華な目覚まし時計やなぁ」

 

とっくに起きてんだろ。つーか服でゴシゴシ擦るのやめろ。全く意味ねえから。そんなんで涎蒸発しねえから。

 

「寝たらお腹空いた。なんか食べよ」

 

こいつ自由にも程があるぞ。

 

「ワタクシおファミレスがいいですわー!!勿論天霧サンの奢りで!!」

 

間違えた。こいつら自由にも程があるぞ。

 

「水だけ飲んでなよ」

 

「そんなー!?!?」

 

「…しゃーなしでライス一杯だけ許す」

 

「よっしゃー!!!お水をおかずにおライス食べますわ!!!」

 

「喜ぶな」

 

「ユウ君オレ肉食べたいな」

 

「うるせえヒモ。お前も米と水にしろ。あとその呼び方まじきしょいから次言ったら殴る」

 

「ユウ君こわーい」

 

「よーし歯ぁ食いしばれー」

 

「顔面殴る感じなん?」

 

あ、逃げた。逃げんなこら。地の果てまで追いかけて何が何でも一発喰らわせてやるからな。

 

走り出す僕の後を、パイセンが楽しそうに追い駆けてくる。

 

 

…寂しさは、何処かに行っていた。

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