Chat.5
504 名無しさん
スレの動き遅いな
やっぱ女神様休憩中だからか
505 名無しさん
今頃獲物探してるんやろな
506 名無しさん
>>505
ハンターかな?
507 名無しさん
まあ平和なのは良い事だ
508 名無しさん
ニュースになってないだけで今も何処かで犯罪は起きとるやろ
509 名無しさん
>>508
たし蟹
510 名無しさん
人間なんてそんなもの
511 名無しさん
犯罪者がいなくなる日なんて来ねえわな
512 名無しさん
悲しいね
513 名無しさん
女神様がきっと今も人知れず世直ししてくれてるよ
514 名無しさん
救世主定期
515 名無しさん
ファンクラブでも作ろうかな
516 名無しさん
>>515
出来たら教えて
Day.9
「大分遠くまで来たな」
「そうですわね!」
オレ達は今、高速道路のパーキングエリアに滞在している。
足があるって、便利なのな。行動範囲の広がりっぷりが凄いっつーか。RPGで空飛べるアイテム手に入れた時の感覚に似てる。
…今なら何処にでも行ける気がした。行き先は無いけど。世界って、こんなに広かったんだな。
「暫く休んだら、また適当に走ってみましょうか」
「ん」
「このまま走り続けたら、世界一周出来るかもですわ!」
「はは…それは流石に、海あるから無理やろ。沈むわ」
「水陸両用車をお入手しなければ!」
「途中でガソリン無くなって漂流するに一票」
「もー!夢がないですわよー!」
オレ達は笑い合う。
――――チビ先輩がろくでもない奴なのは十分に分かってるけど、離れようとは思わない。
運転始めて間も無い人間に高速道路走らせんのまじでヤベーけど、当たり前の顔して人殺した人間だから大して驚きはしなかった。いくら友達の為とはいえ、あそこまでやる?普通。
…いや、俺が言えた事じゃないか。
「はー、それにしても風がお強いですわー。おハッスルしてますわー」
フードを潮風にたなびかせながら、手すりを掴んだチビ先輩がそう言う。
「飛ばされんなよ」
「うふふ!神々廻サンてば大袈裟ですわねー!」
オレは笑っているチビ先輩の頭を、やんわりと上から押した。飛ばされるなんて、有り得んと思うけど。念の為。するとチビ先輩は、照れ臭そうに口を閉じた。
――――コイツ、目離してる間にふらっと何処か行ってしまいそうな気がするんだよな。
神々廻サンと離れる気なんかないですわー!って今は言ってるけど…たまに、怖くなる。目が覚めて姿を確認出来た時、毎回ホッとしてしまう。
変わらない明日を迎えられる保証なんて、何処にもないから。
「な、何だか体が冷えてきましたわ!ワタクシ先に戻っていますので、神々廻サンはごゆっくり!」
「…オレも行く」
「あらま!」
「嬉しそうにすんなし」
「だってぇ〜!捨てられた子犬みたいな目で見て来るんですもの!可愛いですわねおほほほ!」
「ばーか」
ああ、そうだよ。
――――オレはいつしか、コイツに置いていかれたくないと思う様になっていた。
後部座席に乗り込み、ぐでんと横になったチビ先輩は、うっとりと目を細めて言う。
「はーお車やっぱり暖かいですわ!」
「これから夏になるから、もっと暖まれるぞ」
「お限度超えてますわ!?お蒸し風呂不可避ですわ!?」
「冬の寒さ思い出して乗り切れ」
「そんな無茶苦茶なー!」
ぎゃんぎゃん楽しそうに騒ぐチビ先輩を見て、思わず口元が緩む。年上の大人の筈なのに、全然そう思えない。不思議な感覚だった。
「…と、ところで神々廻サン!ワタクシ、やっぱり寒いかもですわ!おハグで温めて下さいまし!」
前言撤回。下心丸出しの醜い大人である。油断ならん。
「はい、毛布」
「えーんえーん!イケズー!」
「未成年に手出そうとすんな」
「いつもそう言いますけれどね!?その逆は許されると思いません!?うふふん、いつでも手出してくれて良いですからねっ!ワタクシ神々廻サンなら特別にウェルカムですのでー!」
アホか。ウインクすな。
暫くして、晩飯を食べる為にオレ達はフードコートに入った。
「神々廻サン、何にしますか?」
「オマエと同じでいい」
「分かりました!」
頷いたチビ先輩は、食券機へやたら丁重に大事そうに金を入れて、小さいうどんのボタンを二回押した。
大丈夫なんかな。本当はオレより食べるっていうか、いくらでも食べられる人なのに。この生活を始めてからはずっとこんな調子で、一番安い物を選んで済ませている。
オレは図体の割に少食だから、これでいいけど。胃袋のサイズの問題じゃない。生命維持が出来るギリギリの…死なないラインを満たす程度の物しか、気持ち的な問題で食べられないんだよな。
…コイツは特に言及して来ないから、一緒に居て気が楽。
テーブルに向かい合って座る。チビ先輩はいつも通り、有難うございます。頂きます。と合掌してから、うどんを食べ始めた。
「…頂きます」
オレも合掌して、続けてうどんを啜る。量が少ないのとチビ先輩の食べる速度の問題とですぐに食べ終わったから、一口一口噛み締める様にゆっくり咀嚼している様子をぼんやり眺める。
「…あ、あのー、神々廻サン」
チビ先輩は、食事の手を止めてオレをおずおずと見上げた。
「そんなに見られると…ワタクシはずかちいというか…」
「駄目?」
「だ、だっ、駄目って訳ではないんですが!むしろワタクシだけ見て〜っていつも思っておりますが!ちょっとあのー…そのー…」
「じゃ、スマホ弄ります。無料WiFiあるし」
「えひーん!やだやだですわー!」
「どうしろと」
「えっとえっと、ガン見せずに見守ってて下さいっ!」
チビ先輩はそう言うと、頬を染めて食事を再開した。オレは言われた通り、ぼーっと遠くを見つつ時折チラ見する。目が合う度に、チビ先輩は嬉しそうに微笑んだ。
こんな風に、日常的に誰かと食事を共にする日が来るなんて、考えた事なかった。もう一生そんな日は来ないだろうって諦めてたから。
人生、何が起きるか分からんものだ。
食事を終えたオレ達は、車内に引き返す前にコインシャワーに向かう。外で寝泊まりしてた頃は大して気にならなかったけど、車内だと空気が篭ってどうしても匂いが鼻につく。ゆっくり眠る為にもちゃんと洗うべき、と双方意見が合致した。
とはいえ、チビ先輩は睡眠の頻度が高くない。三日に一度、気絶する様に眠る。嫌な夢を見るからあまり眠りたくないらしい。まあ寝る寝ないは自由だけど、寝てる間に何かされないかだけがオレは怖い。今の所は何も無いけど。
コインランドリーもあるから、滞在するには最適な場所だった。長期間居座ると怪しまれるだろうし、いずれ離れないといけないのが惜しい。
諸々済ませて、湯冷めしない為にもさっさと車に戻る。
背もたれを倒してある後部座席は、スペースが広くて居心地が良い。寝る時にも便利だし、ワゴン車が手に入ったのは運が良かった。
足を伸ばして目を閉じてくつろいでたら、チビ先輩が声を掛けてくる。
「神々廻サンはいつも、何を聞いていらっしゃるの?」
…ああ。ヘッドホンが気になるんか。まあ、四六時中付けてればそう思っても仕方ない。
「無音」
一言で答えると、チビ先輩は何故か目を輝かせた。
「か、かっこいいですわー!」
何でだよ。
…そう。オレは別に、音楽を聴いている訳ではない。スマホにコードを繋げてるのは、付けといた方が邪魔にならないから。なんでわざわざそんな事してまで付けてんのかというと…ストレスで、聴覚過敏になったせいだ。
普通にしてたらうるさくて敵わんから、耳栓代わりにヘッドホンを付けるようになった。不審に思われないし、良い具合に音が遮断されるし、人に声を掛けられにくくなるし…格段と過ごしやすくなる。だから、オレにとっての必需品。
「無音聴いてるオレ…かっけー…みたいなやつですか?」
「ちげーわ」
「なーんだー若い子特有のオシャレなのかと思いましたのにー」
「…はあ。ま、そういう事にしとけよ」
「雑にあしらわれましたわー!?!?」
ヘッドホンを付けていてもコイツの声はよく届くし凄く聞こえやすい。正直若干うるさいんだけど、不思議と不快では無かった。
車内広いのにわざわざオレの隣…というか真隣…に座っているチビ先輩が、ぽすっと頭を預けてくる。いつも被ってるフードは、今被っていない。何となく自分の頭を乗っけてみたら、風呂上がりだからか良い匂いがした。
「か、嗅いでます!?もしかして神々廻サン嗅いでます!?」
「…んー」
「絶対に嗅いでますわーーーー!?!?」
「ちょっと静かにして」
「ひ、ひええ……ワタクシ、ぽっ…」
落ち着く。眠くなってきた。
「大丈夫かしら…いえいえ念入りに洗ったので大丈夫な筈…おドキドキ…」
なんかぶつくさ言ってるのが聞こえるけど…オレは目を瞑って、意識を手放した。
Day.10
ぼんやりとしたまどろみの中、瞼を薄く開ける。
いつの間にか横になっていた。体には毛布が掛けられている。それから、チビ先輩が膝枕してくれてて…頭を撫でてくれてるのが分かった。
遠い昔を思い出して…懐かしくなる。
――――押し寄せた眠気に流され、オレは再び瞼を閉じた。
「母ちゃん」
少年の声に、化粧の最中だった母親は振り返ります。
「どうしたの、ナギ」
「全然眠くない!」
「あらまあ」
枕を抱いて訴える息子の頭を撫で、ふっと笑った母親は、小さな手を引いて布団へ向かいます。
横になるよう促して、体に毛布を掛けて…その隣に寝転び、母親は少年を寝かしつけます。心臓の鼓動と同じリズムで、毛布をぽんぽんと優しく撫でると…次第に少年は、穏やかな寝息を立て始めました。
少年が眠ったのを確認し、母親は化粧を済ませ、暗い玄関へ向かいます。そして、静かに静かに扉を閉めて、仕事へ向かいました。
少年は、母親と二人暮らしをしていました。父親は遊び人のギャンブラーで、少年が物心着く前に家を出て行きました。祖父母は既に他界していて、頼れる先がなかった母親は、仕事を掛け持ちして朝から晩まで働いていました。
全ては、息子を幸せにする為でした。
好きなだけご飯を食べさせてあげたい。服もおもちゃも何でも買ってあげたい。大学卒業までの学費を稼いであげたい。一緒に居てあげる時間は少なくなってしまうけれど、ちゃんと家事もこなして、母親らしい事をしてあげたい。
片親だからと惨めな思いをさせないように。将来苦労する事がないように。
ですが、少年が高校生になった頃。母親は無理が祟り、体調を崩してしまいました。せっかく息子の為にと貯めたお金が、自分の治療費で消えていってしまう事に、母親は自己嫌悪しました。
少年は、そんな母親を献身的に支えました。料理も洗濯も掃除も頑張りました。バイトも始めて、経済的にも少しでも支えられるよう努めました。
けれど…やがて、母親は「死にたい」が口癖になりました。
ある日。少年が帰宅すると、母親は椅子の上に立っていて、天井に吊るされた縄に手をかけていました。
「何してんの、母ちゃん」
「…ごめんね、ナギ。弱いお母さんでごめんね」
母親は泣いていました。
「怖いの。死にたいのに、怖くて死ねないの。貴方を残して死ぬのも、命を手放すのも、怖いの」
足は微かに震えていました。
「だけどお母さん、もう疲れちゃった」
縋る様な瞳が、少年を捉えます。
「ナギ、助けて。自由になりたい」
少年は母親に生きていて欲しかった。ただ、一緒に生きたかった。
それだけでした。
でも、母親の望みは…自分とは違っていたのです。
少年は、首に縄をかけた母親の懇願を受け入れ、代わりに椅子を蹴り飛ばしました。
そして母親の死を見届けた後。急に怖くなって、住んでいたアパートから逃げ出しました。そんな事をすれば真っ先に警察に疑われる。分かっていたけれど、足は止まりませんでした。
死んで欲しくなかった母親を自分の手で殺してしまった罪悪感に蝕まれた少年は、いつしか自分も死にたいと思う様になりました。
だけど死ぬ事は怖かったのです。
死にたくても、死ねなかったのです。
「神々廻サン〜起きて下さいまし〜」
アイツの声がして目が覚める。体を起こすと、チビ先輩は笑顔でこう言った。
「ワタクシ、お腹ペコペコペコリンチョですわ!」
「今何時…」
言いながらスマホを見ると、正午一歩手前だった。
「…悪い」
「気にしないで下さいまし!さ、ご飯食べに行きま…」
チビ先輩の声が途切れる。無理もない。だって、オレが押し潰しちまったから。
「し、神々廻サン!?真昼間から大胆!!やっとこさその気になってくれましたのね!!ワタクシ大歓喜!!」
「…ちょっと目眩しただけ」
勘違いしているチビ先輩を他所に、もそもそと起き上がる。
もっとちゃんと食べないと駄目、って事か。このままの食生活を続けてたら…多分、オレ死ねるんだろうな。
でも、コイツを置いて死ぬ訳には。
――――そう思った時、オレは妙に納得した。ストンと、腑に落ちた。
母ちゃんが自由になりたがってた理由、分かった気がする。守りたいものって、枷なんだ。
「あの、神々廻サン。何だか顔色が…」
「…今日は久々にカツ丼食べる」
「ま!うどん飽きちゃいました?ふふふ、ワタクシもそうします!久し振りに奮発しちゃいますわ!」
奮発って事は…節約してたんか。まあそうだよな。資金には限りがある。オレには母ちゃんが持たせてくれてた通帳があるけど…このままなら貯金はいつか底を尽きる。
――――なあ、チビ先輩。オレ達あとどれくらい、こうやって生きていけるんかな。
カツ丼を食べ終えて、生き延びてしまったと思いながら、オレは手すりに寄り掛かる。目の前に広がる海は…まるで吸い込まれそうなくらいに壮大だった。
「美味でしたわね!」
「…うん」
「お肉最強ですわ!」
「…うん」
隣で楽しそうに話し掛けて来ていたチビ先輩は、オレの気の無い返事に首を傾げる。
「神々廻サン、どうしましたの?お腹ピーピーですの?おトイレ連れてってあげましょうか?」
「…いい」
「えっとえっと〜…ど、どうすれば元気になってくれますか!?」
「死にたい」
思わずぽつりと呟いて、続ける。
「…ってオレが言ったら、オマエはどうする?」
左右で色の違う瞳を見つめると、チビ先輩は困った様な顔で俯いた。
…次第に、肩を震わせて泣き始める。
最低な事を言ったのを自覚して、自分があの日の母ちゃんと同じだという事に気付いて。オレはもう、自分が限界の手前なのだと思った。いや、とっくに限界だったのかもしれん。
「ごめん」
謝るしか、なかった。
車に戻って、いつもの様に後部座席に座る。チビ先輩は、オレの腕にしがみついて離れようとしない。
――――怖いよな。いつ死ぬか分からん人間なんて。
沈黙を続けている内に、夜を迎えた。チビ先輩が口を開く。
「…神々廻サン。ワタクシ、考えてました。ずっと」
「うん」
「ワタクシの取り柄は、殺人だけです。それだけが、ワタクシの出来る事です」
「うん」
「でも……でも、どうしても。神々廻サンだけは…殺せません。殺したくありません。例えアナタがワタクシに殺して欲しいと願っていたとしても」
腕に込められた力が、強くなる。
「だって、もっとアナタと一緒に生きたい」
「…そっか」
オレの瞳から、涙が零れ落ちた。
いつぶりだろうか。もう思い出せないくらい長い間、泣いてなかった気がする。
あの時、オレも母ちゃんにそう言えていたら…何か変わってたのかな。オレが今、死にたくないって思えたように。母ちゃんも、考えを改めてくれたのかな。
生きるのが辛いなら、楽になって欲しいと思ってしまった。でも、本当は傍に居て欲しかった。なんでオレは背中を押しちまったんだろう。
――――ああ、もう遅い。何もかも。
チビ先輩の腕の中で、オレは声を上げて泣いた。小さい子供が母親に泣きつくみたいに。
ただただ、泣き続けた。チビ先輩は自分も泣きながら、オレが泣き止むまでずっと抱き締めて、頭を撫でてくれた。
母ちゃんみたいに、温かかった。
Day.11
――――お互い泣き止んで、暫くした後。
月明かりに照らされた車内で、ワタクシは神々廻サンの身に何があったのかを、教えて貰いました。話してくれた事をお脳内にしっかりとおメモしていたら、神々廻サンはぽつりとこう言いました。
「殺人しか取り柄ないなんて、もう言うなよ」
ワタクシは驚いて、俯いていたお顔を上げます。神々廻サンは、優しいおめめでワタクシを見つめていました。
「オマエは、あの友達やオレを、そんな事しなくたって…幸せにしたんだから」
――――その言葉はまるで、ワタクシの胸の中心で凝り固まっていた何かをぶち壊してくれたようでした。
お母サマに無能無能と言われ続けたワタクシにとって、衝撃的なものでした。
「有難うございます」
何度も噛み締めます。忘れてなるものかと魂に刻み付けます。
「本当に、本当に…嬉しいですわ」
心の底からそう伝えたら、今度は神々廻サンが抱き締めて下さりました。
――――ああ、なんて愛おしい。いっそこのまま時が止まればいいのに。無理だと分かっていても、そう思ってしまいます。
でも…名残惜しくも、ワタクシは…いいえ、ボクは。時間を進めます。
「神々廻サン。お願いがあるんです。どうか…ボクの話を、聞いて欲しい」
誰にも言わなかった秘密。
神々廻サンなら、受け止めてくれる気がした。
神々廻サンが頷いてくれたのを確認して、ボクは語り始めます。
ボクは、お母サマから虐待を受けていました。
ワタクシだとか、ですわだとか、そんな風に話す様になったのは、お母サマの教育によるものです。そうしなければ、暗い部屋に閉じ込められました。はたかれました。ご飯を食べさせて貰えませんでした。
お母サマが出生届を出さなかったので、ボクは戸籍がありませんでした。存在しない子と同義でした。学校に通わせたりしたら、虐待がバレるからでしょう。
お母サマは子供が出来ない人だと言われていたのに、運良くボクを身篭れた事で喜んでいました。でもお母サマが欲しかったのは、可愛い女の子でした。だからお腹の中の子が男だと判明した瞬間から、自分の望む女の子に…お姫サマに作り変えようと計画を立てたのでしょう。
お父サマは、ボクが産まれる前に事故で亡くなっていました。だから、助けてくれる人は居ませんでした。
ボクはずっと家に閉じ込められ、外に出る事も許されず、お姫サマになるべく暮らしていました。お母サマがどうしてそこまで拘っていたのかは、ボクには分かりません。きっと、聞いても分からないと思うけど。
ボクは、そんなお母サマの期待に応えられませんでした。
不出来だったから。
何をやっても上手くいかなくて、勉強もピアノもダンスも何もかも上手くいきませんでした。お母サマはそんなボクを顔しか取り柄のない無能と罵る一方で、お姫サマにする事を一向に諦めませんでした。
ボクは…自由になりたかった。この檻から逃げ出したかった。お母サマの支配から抜け出したかった。
だから…お母サマを殺しました。
その時に気付きました。ボクは顔しか取り柄のない無能だったけど、人を殺す事なら出来るんだって。
その日を境に外の世界へ飛び出したボクは、お母サマが付けたろくでもない名前を捨てて、自由になりました。一人称や口調も元のものにしたかったけど、この道化の様な振る舞いは人と仲良くなる時に役に立つと気付いたので、そのままにしました。
色んな場所を巡りました。沢山の出会いと別れがありました。手探りだったし、大変な事もあったけど、あの頃とは比べ物にならないくらいに楽しい日々でした。
…そしてボクはいつしか、優しくしてくれた人へのお礼に、殺人を肩代わりするようになりました。ボクの取り柄はそれしかないし、何のお返しもせずに生きるなんて、嫌だったから。
「そんな中、アナタに出会った」
話し終えたボクを一層抱き締め、神々廻サンはこう言いました。
「有難う」
涙声で、こう続けられます。
「生きる事を、諦めないでくれて……有難う」
ボクは瞼を閉じました。涙が流れるのが分かりました。互いの心臓の鼓動を感じながら、ふと思いました。
――――ボクは、この人と出会う為に産まれてきたんだ。
…話したい事は、全部話し終えた。だけどまだ…見せていないものがある。
ボクが、男とも女とも言えない存在に成れ果てた、その証明。
「神々廻サン」
「どうした」
「これ…いつも言ってるセクハラとかじゃなくて、シンプルに…真面目に受け止めて欲しいんですけど」
「おう」
「ボクの下半身、見て貰って良いですか」
我ながら未成年になんて事を言ってるんだろう。
完全に変質者だ。誰かボクを捕まえてくれ。いや、やっぱやめて欲しい。
内心焦っていたけど、杞憂だった。これまでの話を聞いてボクの意図を察してくれたらしい神々廻サンは、真剣そうに頷いてくれたから。
「…有難うございます」
ボクはお礼を言って、パンツに手をかけた。
でも、おかしいな…手が、これ以上動いてくれない。他人に見られるの平気だった筈なのに…何でかな…神々廻サンの事、信じてるんだけどな。ちょっと、怖いや。どうしよう。幻滅されるんじゃないだろうか。気持ち悪いって思われちゃうよな。当たり前だよな。誰が見たってそう思うに決まってる。素人がやった縫合の痕なんて…余りにも見苦しい。ほんと、ボクよく死ななかったな。生命力も取り柄だったのかも。はは。
「え」
神々廻サンがボクの手に自分の手を添える。そして、ボクの耳元でこう言った。
「見せて」
その声が何だか妙に色っぽくて、ボクは顔から火が噴き出そうになった。というか、出た。見えない炎が。
「は、はい」
としか言えなかった。
ボクの惚れた王子サマは、どうしてこうもかっこいいんだ。
神々廻サンは、ボクの下半身をじっと見つめる。
…や、やばい。死ぬ程恥ずかしい。ワタクシモードのテンションだったらどうなっていた事か。
「…痛いんか?」
神々廻サンは心配そうにそう訊ねてきた。
や、優し過ぎる…。おい今までボクの股間をボロクソに言ってきた野郎共。見習え、この尊いお方を。
「いえ、もう全然…」
「そっか」
ホッとした様に微笑んで、神々廻サンは言う。
「なら、良い」
あのさあ。まじで一生ついて行きたい。一生幸せにしたい。末永くよろしくしたい。
あーーーーーーーーーーーーー…好き。
お披露目()も無事に終わり、ボクは神々廻サンに訊ねる。
「神々廻サン…あの。これからは、ワタクシかボク、どっちが良いですか。ワタクシはめっちゃテンション高くてボクはめっちゃテンション低いんですけど…両極端で大変申し訳ないんですが…」
「オマエはオマエだろ。ご自由にどーぞ」
神々廻サンは悩む素振りもなく、何でもないようにそう言った。
それが凄く嬉しかった。
ワタクシとして生きた時間も、ボクとして生きた時間も、全部引っ括めての自分だから。
認めて貰えた気がして。
「じゃあ…気分で変えますね」
「おう」
…すぅーーーーーーーーー。
息を吸って、こほんと咳払いを一つ。
………。
「今は、ワタクシで行きますわーー!!!!」
ワタクシ、神々廻サンにお大好きホールド致します!!!!!!我慢してた気持ちをドッカンドッカン打ち上げますわーーーーーーー!!!!!!
「好きーーーー!!!!神々廻サン、大好きーーーー!!!!」
「おう。オレも好き」
「ゴッフ!?!?!?」
待ってその反応はワタクシ完全に想定外でした!!無理!!しんどい!!愛してる!!
「神々廻サン!!」
「はい」
「結婚して下さい!!!!」
「調子に乗るなし」
くっそーーーー!!!!今ならいけると思ったのに!!!!っていうかワタクシ戸籍無いから結婚出来なくないですか!?!?チ、チキショーーーーーー!!!!
「まあ結婚は置いといて、一緒に居て欲しいとは思っとる」
「それ即ち結婚に等しいのでは!?」
「…解釈は好きにして」
つ、罪な子!!!!好きーーーーーー!!!!ほんっっっっっっっと好きーーーーーー!!!!
「ち、誓いのおキッスして下さい!!」
「えー…」
「照れなくて良いんですよ!!さあ!!さあさあ!!」
押せ押せ押せ押せワタクシー!!神々廻サンは押しに弱い!!神々廻サンは押しに弱い!!
「……目閉じろ」
キターーーーーーーーーーーーー!!!!!!
「はい!!」
ワタクシ、お瞼おシャッターガラガラピッシャーン!!
………あら?
「はい。やったぞ」
「待って待って待ってお口じゃなくてお鼻でしたわよ!?!?座標が!!座標が!!」
「意味知らんの?」
「え、意味?」
「やーい」
「んななななー!?」
か、可愛い!!からかわれました!!
「これで調べろ。……おやすみ。また明日」
そう言うと神々廻サンはおスマホをワタクシに渡して、ごろんと横になってしまいました。
「お、おやすみなさーい!また明日ですわ!」
検索する指がちょっと震えちゃいます。んひひひ。えーっと、キス…鼻…意味…っと。はい!出ました!
『恋人やパートナーを自分の傍に置いて、大切にしたいと思っている』
「ぽ」
ワタクシ。まだ起きているであろう神々廻サンにぴっとりくっ付いて。安らかに死亡。
To be continued
「おはようございますですわー!!」
「ん…朝から元気過ぎん…?」
えっへっへー…ワタクシ、あの後爆睡したんですが…なんと!
「初めて悪夢見なかったんですの!!スッキリ快眠ですわー!!」
眠たそうにしていた神々廻サンは、ワタクシの言葉を聞いて嬉しそうに瞳を細め…頭を撫でて下さりました。
「めっちゃ泣いたから、夢見てる場合じゃ無かったんかもな」
多分、それもありますわね!でもきっと…。
「神々廻サンが全部受け止めてくれて、安心したからかもしれませんわ」
「…ふーん。だと、嬉しいけど」
あらぁん!?珍しく素直!?今日もハイパー可愛いですわー!!日々可愛いを更新してますわー!!
悶えるワタクシの隣で小さく欠伸をした後、こしこしと目を擦りながら神々廻サンは提案してきました。
「…朝飯食うか」
「いえーい!賛成ですわ!」
まあまあまあ…どうしたものでしょう。
「神々廻サン」
「何」
「そ、そんなに食べるんですか?」
「そうだけど」
少食だった筈の神々廻サンが…まさかまさかのお定食(ご飯大盛り)を朝から食べようとしていますわー!?!?
「急に大量に食べて大丈夫なんですか!?」
「これでも少ないくらいだぞ」
「わーぉ」
まあ確かに、昔の話によると凄い食べてたらしいですからね。納得。そうじゃないとこんなに身長伸びる訳ありませんわ。神々廻サンのお母サマ、子どもがスクスク成長出来る為に頑張っていらしたのですわね…。
それに比べてワタクシのお母サマってば本当に!!お陰様でワタクシチビチビのチビ助ですわ!!小柄で助かった事が多いので結果オーライですけれど!!
ひょいぱくひょいぱくとまるでおマシーンの如く食べ続ける神々廻サンに思わず圧倒されていましたら、彼は言いました。
「しっかり食べて栄養取らないとな」
「ふふ!そうですわね!ワタクシもいっぱい食べますわー!」
「おー、そうしろそうしろ」
お味噌汁をズズっと啜った神々廻サンは、ぼそりと付け加えます。
「死んだら許さん」
…んふ!もー、神々廻サンを置いて死ぬ訳!
「心配しなくても、ワタクシは生存する為のおポテンシャル高いですわよ!」
「流石先輩」
どやぁ…。
二人でもりもり食べて一緒にご飯をおかわりしに行くと、おフードコートのオバチャマがまだまだいっぱいあるからねー!と嬉しそうに笑い掛けてくれました。沢山食べる若者がお好きみたいです。お気持ち分かりますわ〜見てて楽しいですもんね!
さーてさてさて。腹ごしらえも済んだ事ですし!
「そろそろ、出発致しましょうか!」
うさぎのおキーホルダーの付いたお車のお鍵を手に、神々廻サンが微笑みます。
「へいへい。行先はどちらまで?」
「世界の果てを見に行きましょう!!」
「何処だよ、それ」
ふは、と神々廻サンが笑います。ワタクシも笑い返します。
神々廻サンと行くなら、目的地なんてなーんでも良いんです!ワタクシは!
お車、発進!出発進行ー!
――――ワタクシ達の旅は、これからですわー!!
Chat.6
988 名無しさん
女神様覚えてる奴いる?
989 名無しさん
>>988
急に音沙汰無くなったよな
990 名無しさん
寂しい
991 名無しさん
彼氏でも出来たんやろ
992 名無しさん
>>991
やめて泣いちゃう
993 名無しさん
>>992
ガチ恋勢涙拭けよ
994 名無しさん
ここのスレの奴らほんと女神様好きだよな
俺もだけど
995 名無しさん
元気に過ごしてるならそれでいいよ
996 名無しさん
だな
997 名無しさん
大分前スレに書き込んだ居残り説教受けてたサビ残社畜だけど今日辞表叩きつけてきたわ
暫くニートを謳歌する
998 名無しさん
>>997
おーお前か
おめ
999 名無しさん
>>997
やるやん
俺もそうすっかなー
1000 名無しさん
皆頑張ってんだな
強く生きような
このスレッドは1000を超えました。もう書けないので新しいスレッドを立ててください。