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​Chat.1

Day.1

Day.2

Day.3

Day.4

​Chat.2

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Chat.1

 

1 名無しさん 

最近殺人のニュース多いよな

 

2 名無しさん

でも被害者ろくでもない人間ばっかじゃね

 

3 名無しさん

>>2 

こんな所に書き込んでるお前もな

 

4 名無しさん

>>3

ブーメランで草

 

5 名無しさん

同一犯なのかね?物騒な世の中だこと

 

6 名無しさん

クソみてえな人間殺してるとか救世主だろ

俺の嫌いな上司も殺してくれねえかなー毎回毎回説教で居残りさせられてるんだが

 

7 名無しさん

>>6 

おま俺

 

8 名無しさん

>>6

>>7

サービス残業乙

 

9 名無しさん

>>6

救世主は草

 

10 名無しさん

可愛い女の子だったら殺されてもいいわ

 

11 名無しさん

>>10

可愛くてもちょっと…

 

12 名無しさん

あんだけ被害出てんのに犯人の情報全然出てこないよな

 

13 名無しさん

警察仕事しろ

Day.1

 

ミナサマ、ごきげんよう。ワタクシ……

 

…ああ、もう名乗る名前がないのでした。何卒、無礼をお許し下さいませ。

 

お願いがありますの。どなたでも構いません。どうかワタクシに…

 

 

お食べ物を恵んで欲しいのですわーーーー!!!!

 

 

も、もう死にそうなんです…おカラスにお財布を取られてからはや三日…何も口にしておりません…このままでは干からびて…おミイラ不可避ですわ…。

 

――――くっ!!ワタクシ、一生の不覚!!

 

家族はおらず…帰るお家は無く…それなのに頼みの綱の全財産を奪われるだなんて…踏んだり蹴ったり殴られたりですわ…もはやへこんでいない箇所を見つける方が難しいくらいにはボッコボコのベッコベコ…はあ…ありえませんわ…。

 

 

道行く人は行き倒れているワタクシに見向きもして下さいません。忙しそうに早足で歩いていかれる方もいらっしゃれば、おスマホに釘付けの方、見てくれたけれど見なかった事になさる方…様々です。

 

まあ、そうですわよね。こんなワタクシに救いの手を差し伸べてくれる方なんて…。

 

「あの…大丈夫?」

 

 

いらっしゃいましたわーーーーーーー!!!!!!

 

 

「ぜ、全然だいじょばないですわ…」

 

お腹の音が追撃かのように大声で主張しました。まあ、はしたないですこと。ほほほ。

 

「そっか…じゃあ、これ。良かったらどうぞ」

 

屈んだお姉サマは、そう言ってワタクシにお箱を差し出します。これはまさか…。

 

「お弁当ではないですか!アナタがお困りになるのでは!?」

 

と言いつつ…ああ…ヨダレが止まりませんわ…た、食べたい…今すぐに食べたい…。

 

「気にしないでいいよ」

 

「め、女神サマですわ…」

 

「ふふ、大袈裟だなぁ。君、面白いね」

 

 

 

ワタクシとお姉サマはおベンチに並んで座ります。

 

「それでは、頂きますわ!!」

 

合掌すると、お姉サマは、はいどうぞと微笑んでくれました。蓋を開けると…なんという事でしょう!!色とりどりのおかず!!お宝石箱ですわ!!

 

「全部お姉サマが作ったんですか!?」

 

「うん。料理…好きで…」

 

「凄いですわねー!!」

 

美味ですわ…美味ですわ…泣けるくらい美味ですわ…干からびた体に染み渡ります…。もっとガツガツいきたい所ですが、染み付いた所作がそれを許してくれません。お上品に…ちまちま…うまうま…。

 

「君、学生さん?」

 

「いいえ!ワタクシこれでもれっきとしたレディなんですの!」

 

「あ、そうなんだ」

 

お姉サマが目を丸くします。

 

ワタクシお発育が乏しいので、未成年に見られがちなんですよね。まあ若々しく見られて悪い気はしませんし、全然OKですわー!ちなみに二十歳以降年齢は数えていませんわー!

 

「ところでお姉サマ、おスーツを着られてますけれど…お仕事は大丈夫なんですの?」

 

朝といえば、お通勤ラッシュ!ワタクシには無縁ですが、お姉サマには関係大ありな気が致します。ワタクシ心配。

 

「…いいの。今日、あんまり会社行きたくなかったから。休もうかなって思ってた所」

 

「あら」

 

何だかお元気がない様子…。

 

 

お姉サマに見守られながら食事を終えたワタクシは、お弁当箱をお返しして…ぺこりと頭を下げます。

 

「有難うございました」

 

「うん」

 

「とっても美味でしたわ!」

 

「そっか。良かった…此方こそ、有難う」

 

笑顔のお姉サマに笑顔を返して、ワタクシはある事を訊ねようとしましたが…お着信音に遮られてしまいました。お姉サマは表情を一変させて、怯えた様におスマホを凝視しています。

 

「お姉サマ?」

 

「…だ、大丈夫。ちょっと待っててね」

 

おベンチから少し離れた所に行って、お姉様は何やらお話をして…今にも泣きそうな顔で戻って来ました。

 

「私、やっぱり会社行く…」

 

「え」

 

「じゃあね…」

 

ふらふらとした足取りでお姉サマは歩き出します。とてもじゃないですが、お仕事出来るような状態ではありません。でも…どうやら意志は固いようでした。

 

ワタクシは何だか小さく見えるお背中へ、慌てて声を掛けます。

 

「ワタクシ…此処で待ってますから!!またお話しましょう!!」

 

お姉サマは振り返り、頷いて小さく手を振ってくれました。

 

 

 

辺りが暗くなって随分経ちます。

 

お帰宅ラッシュを眺めながら、ワタクシはずっとおベンチで待っていました。待つと言った以上、移動するという選択肢はございません。それに、まだ聞きたい事も聞けていませんし。

 

けれど。

 

――――この日、お姉サマは現れませんでした。

 

 

 

会えたのは、翌日の朝。そういえば世間では土曜日ですわね。

 

最後に見た姿と同じ、おスーツを着たお姉サマ。歩いて来た方向は見送った時と同じ。つまり…家に帰っていなかったという事ですわ。

 

お姉サマは此方に気付いた途端、ほっと胸をなで下ろしました。ワタクシは訊ねます。

 

「まさか、こんな時間までお仕事を?」

 

「………うん。私、鈍臭いから、中々終わらなくて」

 

だからってこんな時間までお仕事をさせるなんておブラック企業過ぎますわよ!!

 

「でも、大丈夫。ちゃんと終わったから…」

 

いけない。お姉サマ、明らかに様子がおかしいですわ。お声もお体も震えて…。

 

「とりあえず、おベンチに…」

 

ワタクシが促した、その時。

 

「う、う゛っ、おえ゛ぇっ……」

 

お姉サマは蹲って、嘔吐してしまいました。何も食べていなかったのか、大した量では無かったのが不幸中の幸い……いいえ、何も食べていないなんて大問題ですわ!?疲労困憊でお食事もしていなくて…恐らくろくに寝てもなかったのでしょう。このままではいけません。

 

肩を貸しておベンチに座らせた後、ワタクシは申し出ました。

 

「お姉サマ、ワタクシ代わりに何か買って参ります」

 

「で、でも…迷惑に…」

 

――――ああ、なんて優しい方なのでしょう。

 

最初に迷惑を掛けたのはワタクシだというのに。まだワタクシは何もお返し出来ていないというのに。

 

「そんな事ありませんわ。今食べられそうな物はありますか?教えて下さいませ」

 

「………えっと…ゼリー…」

 

「分かりました!ちょっぱやで行って来ますわ!待っていて下さいな!」

 

 

 

ワタクシは、お姉サマから預かった可愛い柄のお財布を手に、近くのおコンビニに駆け込みます。そして、おゼリーとお水を買って急いで駆け戻りました。

 

「お姉サマ!」

 

「あ…」

 

「10秒で元気をおチャージ出来るおゼリーがありました!それからお水ですわ!」

 

「有難う…」

 

おゼリーを差し出すと、お姉サマは力無くも微笑んで受け取ってくれました。ひとまずワタクシ安心です。

 

「なんかゲロ臭くね?」

 

「うっわマジだ」

 

「酔っ払ったおっさんでも居たんだろ」

 

「はあーくっせえーふざけんなよー」

 

チャラそうなお兄サン達がそう言いながら、ワタクシ達の居るおベンチを通り過ぎて行きます。お姉サマのお顔が曇ってしまいました。

 

くっ!ワタクシ気が利かなかったですわ!違うおベンチにするべきでした!くっさかったらゆっくり休めませんもの!

 

 

10秒以上かけてゆっくりおゼリーを食べ終えたお姉サマは、おスマホを取り出しました。

「警察に言って…掃除してもらわないと」

 

「お、お警察っっっ!?!?」

 

そのおワード…ワタクシ、お心の臓がドキンコドキンコしてしまいます!!

 

「うん。自力ですぐ掃除出来そうにないし…」

 

「べ、別に放置したら良いのではないでしょうか!!」

 

「駄目だよ〜…」

 

冗談だと思われてしまったのか、お姉サマが笑います。

 

まずいまずいまずいですわ…お警察だけはワタクシ関わりたくないのですわ…でもまだお姉サマに大事な事を聞けていないし〜!!放って置けないし〜!!

 

こーなったら!!

 

「ワタクシにお任せ下さい!!!!おゲロお処理お検定一級の実力をお見せ致しますわ!!!!」

…という事でワタクシは、近場のお店からおホースをお借りしておゲロをお排水溝に流しました。

 

「本当にごめんね…有難う…もうなんてお礼を言ったらいいか…」

 

「おほほ!お気になさらず!」

 

ワタクシはそう笑い飛ばしますが、お姉サマは納得いかないご様子。

 

「…あのね」

 

「どうしました?」

 

「またお弁当、食べてくれる?」

 

「ええっ!?!?」

 

「私が出来るお礼、それくらいだから…」

 

「ワタクシとしては、願ったり叶ったりラジバンダリですわよ!?」

 

あんな美味しい物をまた食べられるなんて…幸せ感極まれりですわ〜!!

 

「ふふ。じゃあ月曜日、作って来るよ」

 

「はい!!楽しみにしてますわ!!」

 

 

ワタクシはお姉サマが持ち直せるまでお傍におりました。暫く座っていたら少し元気になったようで…ワタクシは帰宅するというお姉サマを見送ります。

 

「色々有難う。本当に助かったよ…また会おうね」

 

「はい、また!待ち合わせ場所は、このおベンチですわ!」

 

「うん」

 

お姉サマは姿が見えなくなるまで、何度も此方を振り返りつつ帰って行きました。ワタクシはずっと手をブンブン振っておりました。

 

だって嬉しいんですもの!おほほ!お弁当確定だなんて、思いもよらぬ収穫ですわ!やったー!やったー!

 

 

「…あ」

 

 

すっかり質問忘れてましたわーーーーー!!!!

​Day.2

 

月曜日が待ち遠しいですわー!るんるんるーん!やっほっほー!いえええええええーい!

 

ワタクシはウッキウキで、とりあえずお暇なのでお散歩をしていました。夕日が綺麗ですわー!

 

と、そんな時。

 

 

「ンブフッ!?!?」

 

 

誰かとぶつかって吹っ飛ばされました。

 

「あーん!!痛いですわー!!お骨が粉々に粉砕されましたわー!!」

 

「骨粗鬆症かよ」

 

呆れた目でワタクシを見下ろしているのは、背高のっぽなお兄サンでした。おヘッドホンを付けていますが、此方の声はちゃんと聞こえているようですわ。

 

「…髪の毛白いし老人だったか。すまんすまん」

 

「ご老人扱いされる程まだ老いてませんわよ!!!!」

 

ちょぉい!?初対面でなんて失礼な方なんでしょう!!ジェントルメェンの対極ですわね!!

 

「そもそも貴方も髪の毛白いじゃありませんの!!やーいやーい!!」

 

「オレは苦労が祟って真っ白になっちゃったんですぅー」

 

「それを言ったらワタクシだって!!」

 

「…なんだ。仲間かよ」

 

お兄サンはそう言うと、尻もちを着いているワタクシに、微笑みながら手を差し出してきました。

 

「悪かったな」

 

き、急に優しくなると戸惑いますわね!しかも前髪が長くてお顔の大半隠れてますけど、よく見るとかっこいいですし!

 

キュンですわ!

 

「あ…はい。ワタクシこそ…」

 

もしかしてラブロマンスが始まる!?と思いましたが…

 

「んじゃ、達者でな」

 

お兄サンはそう言ってスタスタと歩いて行ってしまいました。あっさりでツレないですわねえ!

 

「お、お達者で〜…おほほほほ…」

 

………。

 

また会えたりしないですかね。ドキドキ。

 

 

 

さーてお散歩再開ですわー!!るんるんるーん!やっほっほー!いえええええええーい!

 

 

「ンブフッ!?!?」

 

 

――――既視感!!既視感が凄い!!ワタクシ舞い上がるとぶつかりやすいんですかね!?

 

「あらら、ごめんねぇ」

 

ワタクシの目の前に居たのは、ふくよかなオジサマでした。

 

「怪我してないかい?大丈夫ぅ?」

 

な、なんか視線がねっとりしているような…笑顔もにったりしているような…。

 

「だ、大丈夫ですわ!」

 

ワタクシは自力で起き上がって急いでこの場から離れようとしました。でも、ガッと腕を掴まれてしまいます。

 

「お詫びに美味しい物ご馳走するよぉ」

 

「え!?」

 

ご馳走ですって!?!?

 

「何でもいいよぉ」

 

「ええ!?!?」

 

何でもですって!?!?

そんなの…そんなの…あそこを選ぶしかないじゃないですか!!

 

 

 

「好きなだけ食べてねぇ」

 

「有難うございますですわー!!」

 

ワタクシ、おファミリーレストランにおりますわー!!店内がキラッキラしてて目ん玉潰れそうですわー!!

 

は〜!贅沢ですわ!贅沢ですわ!場違い感がエグいですが、それはそれ、これはこれ!お姉サマのお弁当以降何も食べて居ませんでしたし、ワタクシ絶賛グーペコランタンなのです!

 

おメニューを見てみると〜…ううん!エクセレント!なんて美味しそうなのでしょう!目移りしてしまいます!

 

「ゆっくり選んで良いからねぇ」

 

「有難うございます!!」

 

おメニューと睨めっこして……よし、決まりました!!

 

 

「おハンバーグステーキのおライスセットにしますわ〜!!」

 

 

すると向かいのおソファに座っているオジサマは、意外そうにワタクシを見てきました。

 

「それだけでいいの?」

 

「え?」

 

「女の子なら、パフェとか食べるかなって…」

 

「おパッフェも食べて良いんですの!?」

 

「良いよぉ。ドリンクバーも付けなよ」

 

オジサマ、神!?!?さては、神!?!?

 

 

「有難うございます!!ちゃんとお礼させて頂きます!!」

 

 

ワタクシ、お食べ物を恵んで下さった方には決まってお礼をしています。

 

ギブアンドテイクの精神はワタクシの美学!誠実に生きなければ自分を嫌いになってしまいますもの。月曜日、お姉サマにも是非お礼しなければね。

 

…あら、オジサマがごくりと生唾を飲みました。オジサマもお腹すいてるのかしら!

 

 

 

あーわくわく!わくわく!​おファミリーレストランなんて高級料理店、滅多に来れないので感激ですわ〜!

 

ふかふかのおソファで、おドリンクバーから取って来たおジュースを飲みつつ心を弾ませていると、オジサマが口を開きました。

 

「えっとぉ、お名前聞いても良いかなぁ」

 

「あら、名前ですか」

 

んーーーーーー…困りましたわね。こういう時は!

 

「名乗る程の者ではございませんわ!」

 

「面白い子だねぇ」

 

オジサマは笑って、懐からお名刺を取り出しました。

 

「僕はこういう者ですぅ」

 

「ほほー!」

 

「困った事があったら、いつでも連絡してねぇ」

 

「はーい!」

 

ワタクシはおパーカーのおポケットにお名刺を片付けます。すると、お料理が運ばれて来ました。ナイスタイミング!

 

目前に置かれたおハンバーグステーキ……ひ、ひええー!!お、お、お、お肉ですわー!!湯気と匂いが凄まじいですわー!!しかもこの後おパッフェまであるんですってよ!!ワタクシ幸せ死してしまいますわー!!

 

最後のお晩餐にならないように、心して掛からねば!!

 

――――ふう。

 

美味しい美味しいお料理を堪能して、ワタクシ達はお店を後にしました。

 

満足!満腹!ご満悦!おエネルギー満タンですわー!

 

「ではオジサマ、」

 

お礼に…と続けようとしましたが、オジサマに腕を掴まれました。

 

「君さぁ、可愛いよねぇ」

 

「え?あ、はい!自覚しておりますわ!」

 

ワタクシの​お顔は可愛いとワタクシ知っております!

 

「お礼してくれるんだよねぇ」

 

「モチのロンですわ!ワタクシに二言はありませんわ!」

 

「喋り方が変なのはちょっと気になるけど…まあいいや…」

 

「え、えっとー?」

 

オジサマはワタクシの腕をしっかりと握り締め、ズンズン歩き出します。

 

 

「美味しい物食べさせてあげたんだしぃ、ちゃぁんと一晩付き合ってねぇ」

 

 

おやおやまあまあ…ワタクシのお礼ってそういうんじゃ無かったんですが…。あ、ワタクシはレディですので、オジサマの言葉の意味は理解しておりますわ。

 

別にワタクシは気にしないのですけど、オジサマは良いのでしょうか。こういうパターン、いつも結果が決まっているのですけれど…。

 

 

 

オジサマとホテルに入ったワタクシは、先にお風呂どうぞぉと言われたのでお言葉に甘える事に致しました。一緒に入ろうとしない辺り、オジサマ結構紳士的ですわね!

 

 

…あらまあ!なんと有難い事にお洗濯機がありますわ!

 

ワタクシはここぞとばかりにお洋服を放り込みます。

 

機会は逃しません!一張羅は大切にしませんと!お食事が最優先なので、基本お洗濯は後回しですのよねー。そろそろ洗いたい頃合いだったので、超ラッキーですわ!

 

おボタンを押す前に、そういえばおポケットの中にお荷物があった事を思い出します。ちゃんと取り出してっと…。ふふふ、セーフですわー!

 

 

――――さあさあ、お待ちかね!!久々のお風呂ー!!飛び込んでやりますわー!ざっぶーんですわー!おほほほー!最高ですわー!おリフレッシュ〜!!

 

訳あってお風呂屋さんは使えないので、とっても助かります!ゴワゴワだった髪の毛がサラサラになっていくの楽し過ぎますわ!ゴシゴシ!あーゴシゴシ!

 

…あら、前髪伸びてきてますわね。またハサミでチョキチョキチョキリンコしませんと。髪が目にかかると鬱陶しいんですのよねえ。でもワタクシにはおパッツン前髪が似合うので、例え管理が面倒でも続行しますわよー!

 

 

そんなこんなで全身洗い倒して、お湯船に浸かっていると…。

 

「随分念入りに準備してるねぇ」

 

オジサマに扉越しに話し掛けられました。

 

「焦らし上手だったりぃ?こういうの慣れてたりするのぉ?」

 

「いいえ!ワタクシ純潔の乙女ですわよ!」

 

「そっかぁ、じゃあ初めてなんだぁ。光栄だなぁ。優しくするからねぇ」

 

「有難うございます!」

 

…はてさて。オジサマはワタクシを受け入れられるのかしら。ちょっと試してみましょうか。

 

ワタクシはガラッと扉を開きます。予想外だったのか、目の前で立っているオジサマはびっくりしたように声をあげました。そして、ワタクシの生まれたままの姿を見て…厳密には下半身を見て…ヒュッと息を飲みました。

 

「そ、それ…」

 

「オジサマ、どうかされました?」

 

「ひぃっ!!」

 

ワタクシが一歩踏み出すと、オジサマは慌てて後ずさります。

 

「どうしてお逃げになるの?あんなにノリノリでしたのに」

 

「わ…わぁ、あ…」

 

「ワタクシ悲しいですわ〜」

 

「な、なんなの…君…なんなのぉ…!?」

 

「何って。レディですわよ?」

 

「そんな訳ないだろぉ!?」

 

叫んだオジサマは弾かれた様に走り出すと、お荷物をまとめてバタバタとお部屋を出て行ってしまいました。

 

どうやらお支払いはしてくれたご様子。まあ、支払わないとお部屋から出られないシステムなので、あたり前田のクラッカーなのですけれど。

それにしても………はあ、やれやれ。やっぱりこうなってしまいましたわね。

 

 

 

ワタクシはお電話でおフロントに事情を説明しました。すると、お洗濯が終わるまで待ってくれる事になりました。助かりますわ~。ビショビショのお洋服でお外に出たら、風邪を引いてしまいますもの!

おバスローブに身を包んだワタクシは、適当におテレビを付けて、お洋服の乾燥を待ちます。それからちらりとおバスローブを捲って、下半身を見てみました。

 

 

そこにあるのは、消えない沢山の縫い傷。

 

 

これを見たら、ミナサマ決まって態度を豹変させるのです。ある人はオジサマの様に怯えて、ある人は気持ち悪いと罵って、ある人は化け物と吐き捨てて…。

 

――――ふふ。難しいものですわね。

 

何だか疲れて、パタリとベッドに寝転んだワタクシは…ふかふかに負けて、うっかり眠ってしまいました。

​Day.3

 

「やめて…!お母さん…やめてよぉ!!」

 

小さい男の子に、包丁を手にした母親が詰め寄ります。

 

「大丈夫。怖くないよ。すぐ終わるよ」

 

その目は、正気を失っていました。男の子は首を横に振って泣き叫びます。

 

「嫌だ!!ボク、女の子になりたくない!!」

 

「どうしてそんな事言うの?知ってるでしょう?お母さんがずっとずっとずっとずっと女の子が欲しかった事。可愛い可愛い女の子が欲しかった事。貴方は残念ながら女の子ではないけれど、とっても可愛いわ。お母さん嬉しい。ただ…これから成長していく事を考えたら…ね。せっかくの原石が目も当てられない石ころになってしまうなんて、勿体ないじゃない。余計な物を付けているばっかりに。だから今の内に正しい姿にしてあげたいの。分かって頂戴」

 

母親は男の子を捕まえました。服を剥ぎ取って、迷いなく包丁を振りかざします。男の子の██を██する為です。

 

「お母さんね、お医者様にもう子供を産めないって言われたの。そもそも貴方を身篭った事自体が奇跡だったのですって。だからね、貴方はお母さんの希望なのよ」

 

母親は██を██しようと試みます。男の子の悲痛な叫び声が響き渡りました。

 

…思ったよりすんなりいきません。

 

母親は、おかしいなぁと思いながら、何度も何度も繰り返しました。

 

何度も何度も何度も何度も。

 

繰り返しました。

 

「お願い女の子になってお願い女の子になってお願い女の子になってお願い女の子になって………」

 

そんな呪詛を吐きながら。

 

 

 

「…うーん」

 

いけない、いけない。つい眠ってしまってましたわ。何だか嫌な夢を見ていた気がしますけど…そんな事よりお洗濯機がワタクシを呼んでいます!

 

「有難う、お疲れ様ですわ!」

 

労いつつホカホカになったお洋服を取り出して着替えると、なんだか心もポカポカになった心地になりました。やっぱり温かいお洋服はジャスティスですわ!

 

さ、忘れ物はないかしら。えーと、あれとこれと…あ、オジサマのお名刺どうしましょう。どうせお電話出てくれないでしょうし、捨てておこうかしら。

 

悪用されたら可哀想なので、ビリビリに細かく破いてからおゴミ箱にイン致しました。それからおフロントに報告して、ワタクシはお部屋を出ます。

 

 

 

まだまだ真夜中!月曜日まであと一日!さーて…何をして過ごしましょう!

 

「…あら?」

 

あそこでおスマホを弄っていらっしゃるのは…もしや!

 

 

「お兄サン!!」

 

 

あの時の髪真っ白背高のっぽイケメンお兄サンですわー!!また会えましたわー!!これってもしや、運命!?

 

お兄サンはワタクシに気付いて、此方をチラリと見てくれました。そして呆れた様に口を開きます。

 

「オマエ、こんな時間に何やってんだ」

 

「えっと〜野暮用を少々!」

 

「ふーん。ま、ここらじゃ若者の深夜徘徊なんぞ珍しくねえけど…気ぃつけて、さっさと帰んな」

 

しっしと追い払う動作をされましたが、ちゃんと心配してくれてますわね。お優しい方ですわ。キュンですわ。

 

でも…

 

「帰るお家、無いですわ」

 

「…」

 

「お兄サンは?」

 

「…オレも、帰る家ねぇよ」

 

「まあ!お揃っちですわね!」

 

「ばーか。んな事で喜ぶな」

 

うふふ。笑われちゃいましたわ。笑顔がクールで素敵ですわ。

 

「この後、ご予定はあるんですか?」

 

ワタクシが訊ねると、お兄サンはおスマホをタプタプしながら答えます。

 

「特に何も」

 

「つまり、お暇人!」

 

「うっせー」

 

「大丈夫ですわ!ワタクシもお暇人ですから!」

 

「見りゃ分かるっつーの」

 

うふふふ!めっちゃ構ってくれますわ!これは脈アリ!

 

「一緒にお茶でもどうでしょう!?」

 

「真夜中に男を誘うな。マセガキ」

 

「んま!これでも大人ですのよ!」

 

いやん!ええ〜…?みたいな顔されましたわ!

 

「ちんちくりんなのに?」

 

「えっへん!」

 

「無い胸を張るな」

 

「きゃー!セクハラですわ!セクハラですわ!」

 

「あーあーあー悪かったから大声出すのやめろ」

 

「はーい」

 

小声で答えると、お兄サンはやれやれと溜息を吐きました。そしておスマホを仕舞って、ワタクシに向き直ります。真っ黒なおめめが…す・て・き!

 

「…何でオレに構うん」

 

「えー?」

 

「えー?じゃねんだわ」

 

ワタクシはもじもじしながら可愛さ全開でお答えします。

 

「そんなの〜そんなの〜LOVE!だからに決まってますわ〜」

 

「未成年に色目使うなし」

 

「色目だなんてそんなぁ!……え?」

 

 

――――未成年?

 

 

「大人じゃなかったんですの!?」

 

「17」

 

「Seventeen!?」

 

「無駄に発音良いな…」

 

うっそー!?こんなに発育良いんですか最近の若い子は!!恐ろしっ!!恐ろしいですわ!!ワタクシと大違い!!

 

「まあそんな訳なんで、犯罪者になる前に去ってもろて」

 

「やだやだやだやだやだですわ!!」

 

「駄々こねんな」

 

「ではワタクシも未成年という事で!!」

 

「事実を改変しようとすんな」

 

「じゃ、じゃあせめてお名前を…お名前を教えて下さい!!」

 

「今後関わらねえのに名前知ってどうすんだ」

 

「昼間におデートしてくれないんですか!?」

 

「面倒なのに目付けられたなー…」

 

お声に出てますわよ!おほほ!

 

 

「…神々廻(ししば)ナギ」

 

 

「ほ?」

 

「二度は言わん」

 

「ほーーー!!ほっほーーー!!」

 

「興奮し過ぎ」

 

神々廻ナギ…神々廻ナギ…覚えました!!ワタクシの脳細胞に刻み込みました!!なんて素敵なお名前!!でも…急に下のお名前でお呼びするのは…ワタクシはずかちいので…。

 

「神々廻サン!!」

 

「はい。なんでしょーか」

 

「ワタクシは名乗るお名前が無いのでご自由に呼んで下さいまし!マイハニーでもマイワイフでも!」

 

「じゃ、チビ先輩で」

 

「『い』しか掠ってませんわ!?」

 

「一文字掠っただけでも儲けもんだろ」

 

「確かに!!」

 

やったー!やったー!

 

「ところで神々廻サン!」

 

「はいはい」

 

「お茶に行きましょう!」

 

「…三年後にな」

 

断られなかったですわー!!わーい!!嬉しいですわー!!

 

…っとと、あんまりしつこくして嫌われたりでもしたら悲しいですわね。今日はここまでにしておきましょう。

 

それはもーーーう名残惜しい!ですけど!ワタクシ達きっと運命の赤い糸で結ばれていると思うので!絶対絶対絶対にまた会えますわよね!うふうふふ!

 

と思っていたら、神々廻サンがポツリと呟きました。

 

「…腹減った」

 

「え?」

 

「コンビニ行く」

 

「おコンビニ…アナタとコンビニ…つまりワタクシとコンビになりたいのですか神々廻サン!?」

 

「どういう解釈だよ」

 

「人生のパートナーになりたいのでは?」

 

「なんて?」

 

「伴侶として共にこの先を歩みたいのでは?」

 

「なんで?」

 

肩を竦めた神々廻サンは、おコンビニがあるであろう方向へ歩いて行きます。ついて行きたいけど…ううむ…。立ち尽くしながら悩んでいますと、神々廻サンが振り向いて言いました。

 

「来ないんだ。意外」

 

そう言ってくるっと踵を返して、また歩き始めます。

 

な、な、なーーーー!?!?

 

「行くに決まってますわーーー!!!!」

 

ワタクシ、神々廻サンにどーんと突撃すべく猛ダッシュー!!

 

 

 

おコンビニに入ったワタクシ達。神々廻サンは商品棚には目もくれず、おレジ近くのお肉まん達を眺め始めました。

 

「もうこの時間だし大して残ってねえな。あるだけマシだけど」

 

「そうですわねえ」

 

お肉まんお好きなのかしら。うふふ。

 

「オマエ、肉まんかあんまんどっち好き?」

 

「どっちも大好きですわ〜!」

 

「…そか」

 

神々廻サンは店員サンに声を掛けます。

 

「肉まんとあんまん1つずつ」

 

まあ!両方だなんて!強欲な所も素敵!

 

 

 

おコンビニを出て、お店の近くのおベンチに座りました。さーて、さてさて!神々廻サンのもぐもぐタイム拝見しちゃいましょ!

 

心の準備ばっちし!なワタクシに。

 

「ん」

 

なんと!!神々廻サンは袋から取り出したお肉まんを半分に割って、片方を差し出してくれたではありませんか!!!

 

「い、良いんですか!?」

 

「要らんなら一人で食うけど」

 

「要ります要ります超要ります何ならあと100個は要ります!!!」

 

「胃袋ブラックホールかよ」

 

わ、わぁあー!!ホカホカ!!熱々!!しかも神々廻サンと半分こだなんて…お、おほ、おほほほ!おほ!

 

「神々廻サン、有難うございます!!」

 

満面も満面な笑みでお礼を言ったら、嬉しそうに口元を緩めてくれました。ひぃん…しんどいですわ…多分ワタクシの心拍数、今大変な事になっておりますわ…。

 

ととととにかく!温かい内に頂きましょう!むしゃむしゃむしゃりんこ!美味しい物はいくらでも入りますわ!食べられる時に食べておかないとですわ!幸せー!

 

ぺろりと平らげてニコニコしていたら。

 

「チビ先輩」

 

「はぁい…モフゥ!?」

 

おあんまん(おハーフ)をお口に突っ込まれましたわー!!これ、あーんってやつですわよね!?え!?ワタクシ達ラブラブカップルァ!?

 

「はは。なーんか和むわ」

 

……………………え、えへ。

 

「それは何よりですわ!」

 

「ほんとに年上なん?」

 

「ええ、お姉サンですわ!」

 

「お姉さん(笑)」

 

あらー!?なんでどしてなんでー!?

 

「じゃあさ。お姉さんにお願いあんだけど」

 

「どんとこい!ばっちこい!」

 

「朝まで膝貸してくんね」

 

「お膝レンタルですわね!お易い御用ですわ!ではお膝をガッコンと取り外しまして〜…」

 

え?いや?ん?待って下さいまし?よーく考えて?ワタクシ?よーく考えて?

 

 

「おひじゃまくりゃって事ですか!?」

 

 

「うん」

 

「むしろそんなご褒美貰ってしまって良いんですか!?」

 

「何でご褒美になるんじゃい」

 

なるに決まってんでしょうがぁ!!!!

 

おっと喜びのあまり感情が昂ってつい心の中でおプッチンしてしまいましたわ…こほん!

 

「…オレ、未成年だから。夜にホテルとかネカフェとか使えねえんすよ」

 

「という事は…」

 

「基本ベンチで寝てる」

 

「まあ…」

 

神々廻サンは大きな欠伸を一つして、ごろんとおベンチに横になりました。勿論、ワタクシのお膝を枕代わりにして。

 

「つーわけでよろしく。おやすみー」

 

「お、おやすみなさいませ!良い夢を…」

 

大胆〜!拒否権無〜!なんて強引グマイウェイなお方〜!ますます好きになっちゃいましたわ〜!いっそ神々廻サン専用お枕になりたいですわ〜!

 

 

 

――――えー、こちらワタクシ。朝になりましたが、神々廻サンはまだグースカピーしております。喧騒の中に居ても、​おヘッドホンが耳栓代わりなのか安眠出来ているようです。

 

ワタクシはというと、夢見心地のまま、太ももの感覚がほぼ無くなっているのも気にせず…幸せに浸っております。はあ…神々廻サン…ほんと…まじ…イケメンですわ…お肌もツヤツヤ…これが若さ…眩しい…。

 

 

「…母ちゃん」

 

 

「え?」

 

神々廻サン…今、母ちゃんって言いました?およよ?聞き間違い?いえいえまさか。ワタクシお地獄耳ですし。

 

お寝言を呟いた後も起きる気配は無かったので、ワタクシは神々廻サンの頭をなでなでなでりんちょしました。はー、役得役得。

「ふわぁ〜…ですわ…」

 

可愛い寝顔を見ていたら…何だかワタクシも眠たくなって参りましたわ…あんまり眠らない様にしてるんですけれどね…嫌な夢ばかり見るので…。

 

ああ、でも…逆らえない…です…わ………

​Day.4

 

「また間違えた」

 

母親は、ピアノに添えられた小さな手をピシャリと打ちます。

 

「どうしてこんなに練習しているのに弾けないの?せっかく買ったピアノが泣いているわよ…嘆かわしい」

 

「ごめんなさい、お母サマ…あの…ボク、疲れ……」

 

ハッと口を押えましたが……ああ、もう遅い。

 

「ボク?今、ボクって言った?」

 

「い、言ってません!!」

 

「言った」

 

母親は我が子の首根っこを掴みます。そして暗い部屋に放り込んで、扉を閉めて、鍵をかけました。

 

「現状顔しか取り柄がないのだから、せめて言葉遣いだけでも早急に定着させなさい」

 

――――冷たかった声は、急に温かみを持ちます。

 

「お母さん信じてる。どれだけ貴方が無能でも見捨てないわ。だから…応援したいと思えるような素敵な子になってね。頑張ればいつかきっと報われる日が来るの。貴方なら素敵なお姫様になれるわ」

 

意味不明な発言に、反論する気力は既にありません。無駄だと分かっているからです。だから男の子…いいえ、もはや何と形容していいのかさえ分からない…哀れな子は、暗い部屋で何度も何度も唱えました。

 

「ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ、ワタクシ…」

 

まるで、刻み込む様に。

 

 

 

「んごっ…」

 

ワタクシ、お開眼!シャキーン!

 

…あら?いつの間に横になっていたのかしら。しかも頭の下にあるのって…。

 

「豚の鳴き真似上手いな」

 

神々廻サンの声が頭上から降ってきます。

 

という事は…もしかしてもしかしなくても今ワタクシ神々廻サンにお膝枕して貰っちゃってる感じですのーーー!?!?

 

……頬擦りしときましょ。すりすりすり。あ、すりすりすり。

 

「くすぐったいからやめれ」

 

のあー!!お膝ずらされましたわー!!ぐぬぬ!!

 

「あ。ヨダレ垂らされてら」

 

「ええ!?ご、ごめんなさい!!」

 

ひーん!!ワタクシってば、なんて事を!!

 

「いいよ別に。ほっときゃ乾くやろ」

 

神々廻サンは呆れた様に、でも優しく笑います。まあ…怒らないのですわね…お心が広いですわ…キュンですわ…。

 

「にしても、めっちゃ爆睡してたな。もう昼過ぎだぞ」

 

「まあほんと!おやつの時間ですわ!」

 

神々廻サンが見せてくれたおスマホに表示されている時間を見てびっくりして、ワタクシはガバッと起き上がります。

 

「神々廻サン…どうしてワタクシが起きるまで、待っていて下さったんですの?」

 

「置いてけば良かったん?」

 

「そんなの嫌ですわー!」

 

「だろ?だから居た」

 

ほあ…優しさに包まれたなら…きっと…目に映る全てのものは…LOVE…。

 

「…さてと。起きた事だし、オレ行くわ」

 

と思ったら急にあっさり塩ラーメン!!

 

「ご予定が出来たんですか?」

 

「まあな」

 

「ワタクシ以外のレディに会いに行くんですか!?」

 

「秘密」

 

いやあああああああああーーーー!?!?!?!?

 

「またな。チビ先輩」

 

…!!

 

「は、はい!また会いましょうね!絶対絶対、ぜーーーったいに!会いましょうね!」

 

またなって言ってくれましたまたなって言ってくれましたまたなって言ってくれましたわー!!神々廻サン……しゅ、しゅき……。

 

 

 

そういえば、ここら辺ってお姉サマとの待ち合わせ場所に近いですわね。えーと確か…ああ、あれですわ!あのおベンチで間違いありません!

 

省エネでいく為にも、座って明日を待ちましょう。という事でワタクシはおベンチに近付きま…

 

「誰かーー!!!!引ったくり…!!捕まえてえー!!!!」

 

え、え、えええっ!?何、何っ!?引ったくり!?

 

「どけ!」

 

「んぎゃぴー!」

 

酷いですわー!?急に後ろから突き飛ばされましたわー!?

 

…むむむ!さては、あの方が犯人ですわね!?

 

「待ちなさぁーーーーーーい!!」

 

許せませんわコンチキショー!!レディにぶつかっておきながら一言も謝らないなんてありえませんわー!!という事でワタクシ、瞬く間に追い付いて、怒りのおライダーキーーーック!!!!

 

「うわっ!?」

 

「さあ、謝って!!今すぐ謝って下さいまし!!」

 

「くそ!!離せクソガキ!!」

 

「あーやーまーれーでーすーわー!!」

 

あら!?いつまで経っても謝りませんわね!この!この!紳士の極みの神々廻サンを知ってしまったワタクシは、昔とはブチ切れボーダーラインが違うんですのよ!

 

失礼なオジサンをプロレス技で羽交い締めにしていると、お警察を引き連れた見知らぬお姉サンが、ワタクシに駆け寄って来ました。

 

「あ、あぁ…有難うございます…!」

 

「君、お手柄だね!」

 

「へ?」

 

な、なんか拍手があちこちから聞こえてきますわ。あらま、ワタクシってば人気者?

 

お警察はワタクシから失礼なオジサンを引き取り、お手錠をガッチャンコしました。おバックを取り戻したお姉サンは、中身を確認して…嬉しそうに涙を浮かべながら言いました。

 

「全部無事です!」

 

それからワタクシにペコペコとお辞儀をしてきます。

 

「本当に有難うございました!凄くかっこよかったです…!」

 

「え、えへへ…」

 

いやぁ、それ程でもぉ…。

 

「あの、これ…お礼と言っては何なのですが、貰って下さい」

 

「あら!」

 

お姉サンは、未開封の飴チャンを一袋丸ごと下さりました。

 

「ごめんなさい、渡せる物がこれくらいしかなくて」

 

「とんでもございませんわ!有難く頂きます!」

 

ワタクシは飴チャンの袋を抱き締めて、笑顔でお礼を言います。うふふ、ラッキー!素敵なおやつゲットですわ!

 

……そ、それにしてもこんなに注目されていると何となく居ずらいですわね。こんな筈では。とりあえずお警察もいる事ですし、この場を離れましょう。そろーり、そろーり……。

 

 

 

暫く行くと、人気のない路地裏がございました。よしよし、一安心。此処で暫く息を潜める事に致しましょう。

 

ワタクシは適当な所でしゃがみこみます。

 

省エネでいくつもりが、早々にあんな事になろうとは。それもこれも、​お食べ物を恵んで下さった方々のおかげですわね。元気が無ければ鬱憤晴らしもままなりませんもの。

 

 

予期せぬ報酬こと飴チャンの袋から1つ選んで、おやつとして舐めながら…ワタクシはふと空を見上げます。

 

…神々廻サンは、今頃何をしているのかしら。

 

うふふ、何だか楽しいですわ。こんな風に人を想うのは。これがきっと…恋なのですわね…お胸がトキメキキュンキュンMAXですわ…。

 

…そうだ!今度会った時、飴チャンあげましょ!何味がお好きかしら。うふふふ。まだまだ知らない事が沢山!

 

 

 

飴チャン効果なのか、はたまたそうでないのか、ワタクシはあまあま〜な気分でウキウキしながら夜を迎えました。流石にそろそろ戻っても大丈夫でしょう!おベンチを目指して…ワタクシ再出発!

 

――――あら?

 

 

なんと、おベンチにはお姉サマが座っておりました。待ち合わせにはまだ早いですのに…いえ、ワタクシが言えた事ではないですけれど。

 

「お姉サマ!どうされましたの?」

 

声を掛けると、俯いていたお姉サマはパッと顔を上げました。そしてワタクシを見て、心底ホッとした様に…今にも泣きそうな顔で微笑みます。

 

「あ…!会えた…良かった…!」

 

「うふふ!ワタクシ参上ですわ!」

 

隣に座ると、お姉サマはおカバンからお弁当箱を取り出しました。

 

「一日早いんだけど…」

 

「フライングお弁当!やったー!」

 

豪華な晩御飯ですわー!

 

「今食べてもよろしいですか!?」

 

「うん、勿論」

 

「有難うございます!頂きまーす!」

 

ひゃ〜!今回も気合いの入った素敵なおかず達!金銀財宝に勝りますわ〜!美味!美味!もぐもぐ!

 

ワタクシがニコニコ食べていると、お姉サマはぽつりと言いました。

 

「…あのね。一人言だと思って、聞き流して欲しいんだけど」

 

ワタクシが頷くと、お姉サマは話し始めました。

 

 

私…貴方に嘘吐いたの。

あの日、朝帰りになったのは…仕事してたからじゃ、なくて…。じ、上司に…ホテルに連れ込まれそうになって…必死で逃げて…朝が来るまで、公園のトイレに篭ってたから…だったんだ。

今の仕事、好きだから辞めたくない。でも、セクハラされてたのが広まったら…私、もう職場に居られない。

れで、大事にしたくなくて…上の人にも、警察にも言えなくて…ずっと我慢してた。

他の人が居ない時に、体触られたり…家に行きたいとか言われたり…気持ち悪くて、怖くて…辛かった。

それでも頑張って耐えてたけど…あの日、帰り道、急にホテルに…連れ込まれそうに…なって…。

仕事はしたい…けど、あの上司に会いたくない…会社行きたいけど、行きたくない…。

もう、どうしたら良いか…分かんなくて…。

 

お弁当を食べ終えたワタクシは、泣きじゃくるお姉サマを抱き締めます。

 

「ごめんね…関係ない、のに…こんな話…しちゃって…」

 

「気にしなくて、良いのですよ」

 

「有難う…。私、親にも友達にも、言えなくて…。言ったらきっと…会社辞めたら?とか…上の人に言えば?とか…言われる気がして…」

 

「よしよし、一人で本当に…よく頑張ったのですね…」

 

見ず知らずのワタクシしか、お姉サマは頼れなかった。

 

それは…ワタクシだけが、お姉サマを救えるということ。

 

ワタクシはここぞとばかりに質問を繰り出そうとしました、が。

 

 

「あんな奴…死んじゃえばいいのに…」

 

 

すっと引っ込めました。あらまあ!なんて事!そうと決まれば話は早いですわ!

 

「そのお上司、なんてお名前ですの?」

 

「ん…えっとね」

 

ふんふん。成程!なんという偶然!お姉サマのお上司、ワタクシ知っておりますわー!

 

「お姉サマ。ご安心下さいませ」

 

ワタクシは飴チャンを一つお姉サマに手渡して、笑顔で言います。

 

 

「絶対に、アナタを助けますわ」

 

 

「ほ、ほんと?」

 

「ええ!だから、ワタクシを信じて…明日はちゃんと、会社に行って下さいな」

 

不思議そうにしながらも、お姉サマは頷きます。

 

「うん…分かった」

 

 

 

お姉サマと別れて、ワタクシは目的の為に行動を開始しました。

 

 

スタンガンの調子は…うん、良好ですわね!ロープもちゃんと持ってます!腕が鳴りますわー!

 

機会を逃してしまってましたが、ずっとずっとずっと聞きたかったのです!今回は結果的に聞く必要が無くなりましたけども!

 

ワタクシ、お食べ物を恵んでくれた方にはいつもこう訊ねておりますの。

 

 

『殺して欲しい人はいますか?』 と!

 

 

それだけがワタクシの取り柄!!顔以外なんの長所もない無能なワタクシが、唯一出来る事!!

 

さあ、お姉サマに恩返し致しましょう!頑張った子は、報われなければいけないのですわー!

Chat.2

 

49 名無しさん 

今回の被害者、セクハラおじさんだったらしいな

会社の若い子達狙いの

 

50 名無しさん

きも

最低

 

51 名無しさん

おっさんざまぁwwww

 

52 名無しさん

セクハラはアウト

そら恨み買うわな

 

53 名無しさん

女の敵

死ねばいいのに

 

54 名無しさん

>>53

もう死んどる死んどる

 

55 名無しさん

女の子達ホテルに連れ込んでたらしいな

 

56 名無しさん

>>55

それ

なんであんな豚野郎が良い思いしてたのに俺はこうなんだろって惨めな気持ちになったわ

 

57 名無しさん

今回のもあの殺人鬼なんかな

女の味方だったり?

 

58 名無しさん

それか女の可能性

 

59 名無しさん

女神様じゃん

ファンになりました

 

60 名無しさん

>>59

女神様は草

 

61 名無しさん

>>59

どうせ男だろ

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