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Episode.4-イオニア

 

教会から学校へレンと移動している最中。

 

――――ふと、青い花が目に付いた。

 

「ハイドレンジア」

 

「ええ!?何ですか急によそよそしくなっちゃって!!」

 

「違う違う。ほら、見てみなよ」

 

勘違いしてぶすくれてそっぽ向いたレンの頭をぽんぽん叩いて、視線をこちらに向けさせる。するとボクの後ろに咲いていた花に気付いたのか、レンは目を輝かせた。

 

「わー!綺麗なのです!」

 

「ボクより?」

 

「面倒臭いめがみさまですねぇ」

 

「えーん、面倒臭いって言われたー悲しいー」

 

「あーもー嘘ですよぉ!面倒臭くないない!そしてめがみさまは世界一美人なのです!」

 

「えへ」

 

満足。

 

…そういえば。

 

「ねえ、レン。知ってる?ハイドレンジアには水の器って意味があるんだよ」

 

「ほえー!めがみさまってば博識ぃ!」

 

「ふふん」

 

おっとつい得意気になってしまった。本題に戻そう。

 

「…ボクは水の女神だろ?で、レンはハイドレンジア…つまり水の器な訳だ」

 

「つまり!!」

 

「うん」

 

「どゆことなのですか!!」

 

ボクはずっこけた。

 

このお馬鹿には回りくどい言い方がやはり通用しない。分かってた。分かってたとも。仕方ないので説明するけど…ぐ、ぐぬぬ…なんか恥ずかしいぞう…。

 

「えぇー…つまりぃ…レンはボクの器になれるのかな〜?っていうかぁ…そのー…マブダチとしてぇ?ボクを満足させられるのかな〜的なぁ…」

 

「めがみさま」

 

「な、何」

 

なんか中腰ガニ股で両手広げてんだけどこのマブダチ。

 

「どんとこいってんですよぉ!!ばちこいばちこい!!」

 

「なんつーむさくるしい器だ」

 

「照れなくて良いんですよぉ!?ほらほら!!」

 

「やーだー!!やだやだやーだー!!」

 

「来ぬのなら此方から行くにござる」

 

「ぎゃー!!誰だこの武士ー!!」

 

公衆の面前で抱き締められました。誰にも見えてないけど。

 

 

 

気を取り直して、ボク達は登校を再開する。するとレンが楽しげに口を開いた。

 

「あの花が咲いてるって事はあれですね!そろそろぼくらのお誕生日なのです!」

 

「せやな」

 

「今年もパーティしましょうね〜!」

 

「おん」

 

「どうしたんですかめがみさま?まだ照れてるんですか?」

 

「違いますぅー照れてなんかないですぅー」

 

「めがみさまぎゅっぎゅするの大好きですもんねぇ」

 

「…」

 

「可愛い〜」

 

うるせーやい。

 

「話変わるけど」

 

「うんうん!なんですか?」

 

「中学校卒業したらどうすんの」

 

どうせレンの事だからノープランなんだろうなと思ってたけど、不敵な笑みを浮かべている。

 

――――まさか…既に計画が…!?

 

「高校生になります!!」

 

「え…」

 

「で、高校卒業したら大学行きます!!」

 

「マジで?勉強する気ないのに?」

 

「受験勉強しなくて良いって最高ですよね」

 

こいつ。

 

「楽しそうな学校一緒に選びましょ〜」

 

「はいはい」

 

無抵抗で腕を組まされつつ、ボクは適当に返事する。

 

 

ま、レンと過ごせるなら場所なんて何処でも良いし。学生をやりたいんなら全然付き合うつもり。

 

生きて通う方が良いと思うけど…生き返らせてあげようかって言っても断られるんだよな。ちゃんと自分の人生受け入れてるの。そういう所無駄にかっこいいと思う。

 

――――つーか生きて学校通ったりしたらレンがボクだけのレンじゃなくなるんじゃね…?

 

は?無理。絶対やだ。

 

レン死んでて良かったー!

 

 

「なんでニコニコしてるんですか?めがみさま」

 

「別にー」

 

「言えよ〜ぼくらの仲だろ〜」

 

「あーあーあーやめろーくすぐるなー!!」

 

「じゃあ言いますか?」

 

「言わない」

 

公衆の面前でくすぐり倒されました。誰にも見えてないけど。

 

 

 

もう一度気を取り直して…ボク達は登校を再​々開する。

 

「大学卒業したら何すんの」

 

何となく訊ねたら、レンはえっへんと無い胸を張った。

 

「めがみさまと冒険します!!」

 

「冒険?」

 

「そうです!前回のお誕生日に言ってたじゃないですか。この世界以外にもいっぱい世界があるって!そこを二人で冒険するんです!」

 

ほーん。楽しそう。

 

「色んな思い出作りましょうね!」

 

「うん」

 

るんるん歩くレンの隣で、ボクは思わず頬を緩める。

 

 

…幸せだな。独りじゃないのは。

 

 

「ねーレン」

 

「何ですかー?」

 

「呼んだだけー」

 

「んぇえー!?」

 

言おうと思ったけど、やっぱ恥ずかしいからまた今度。誕生日になったら言おうかな。

 

 

――――ボクと出会ってくれて、有難う…って。

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